陽だまりの天使
肩をそっと揺らされ、いつの間にか沈んでいた意識が浮上する。
さっきまで坂木さんが、ギャラリーのお客さんの話をしてくれていたはず。
しかし、最初に目に映ったのは力の抜けた自分の足。
「なんだよ真理。もう解散か?」
確か土谷さんだった男性の声に慌てて視線を持ち上げるが、座っていたはずの坂木さんも、足元にいたはずの倉持先生も捕らえられない。
腰を浮かせると、ようやく先生を引き連れて廊下に出ようとしている坂木さんの背中を見つける。
「夜勤明けで疲れてるとおっしゃってましたから。よければ僕、先生のついでに車で送りますよ。飲み足りないなら次の店に」
寝てしまったのを気遣ってくれてかもしれない。
そして同時に、とても失礼なことをしてしまったことに焦る。
「あ、コレも真理よろしくー。帰る組は任せた。いつものバーで合流。『絶対』来いよ」
流れるように土谷さんが坂木さんに伝票を渡すのを、寝起きの頭ではその光景を見送るしかできない。
「直美ちゃんと真帆ちゃんはどうよ。もうちょっと飲まない?俺案内するから」
「いいね、つっちー。ニ次会レッツゴー」
荷物をまとめてコートを羽織る直美に続いて私もカバンと防寒具を引き寄せながらみんなに謝る。
「寝ちゃってたみたいでごめんなさい」
謝ってみるが、最も謝らなくてはならない相手いない。
その相手レジでお金を払っている。
「寝てたの?隣にいたのに、全然気づかなかったわ」
「あたしはてっきり佳苗はセンセーがネックレス壊さないか見張ってるのかと思ってたよ」
真帆と直美に笑われながら、土谷さんに促されて手早くマフラーとコートを身につける。
土谷さんに続いて店の外に向かう真帆たちを追いかけると、坂木さんと倉持先生が一足先に店を出ていくのが見え、余計に気持ちが焦る。
寝てしまった時間は短いようだけれど、話をしていたのに眠ってしまうなんて、失礼極まりない。
もう会うことがないだろうから、なおさら今、謝らなくてはならない。
追い立てられるように店を出ると忘れていた2月の風が一瞬にして体温を奪う。