陽だまりの天使
「いいのいいの、佳苗はかわいいからニコニコ笑ってるだけで男どもと私が喜ぶ!」
施設の利用者さんならば直美の言い分を鵜呑みにしてもいいかもしれないが、合コンとなればそういうわけにもいかない。
直美の連れてきた男性は直美と似たような元気一杯の人ばかりだったので先日の合コンを思うとため息が零れそうになるのを必死で飲み込む。
「誘ってくれるのは嬉しいけど、真帆はどうするって?」
たぶん脳内で計画が練られている直美の気持ちを思うと無下に断ることも申し訳なくて、真帆の名前を挙げてみる。
真帆がいるならば、彼女の傍にくっついているのも手だろう。
「真帆つれなくてさぁ、しばらくパスだって。私の見立てだと、一緒に行った飲みで『ユウキ』っていたじゃん?
あいつと連絡取ってるみたいだからさ、一抜けするかもなんだよねー。だから、私たちも追いつけ追い越せだ!」
先の合コンで、やたらとスキンシップの多い男からかばってくれたのは真帆で、彼女がいなければさらに気が重くなる。
断る理由を見つけられないまま、嫌ともはっきり断れない。
参加してたくさんの人と知り合うのは今後の自分のためだとは思う。
ただ、人見知りが激しくて、初対面の人とテンション高く飲み食いする合コンにはどうも馴染めなくて、解散後の疲労感を思い出すと気が乗らない。
それに今は、坂木さんとの関係に満足しているだけに、はっきり言えない自分の押しの弱さにも自己嫌悪に陥る。
メールのやり取りは続いたけれど、決定的な進展はない。
でも、恋に発展する可能性がゼロではないと信じたい自分もいる。
今のところ文通とそう変わらない穏やかなやりとりは緊張感や身を焦がすような恋を感じることはできない。
しり込みする私に、直美が追い討ちをかける。
「佳苗、坂木さんとメールするのはいいけど、脈がなさそうなら坂木っちは見切りつけて、次、次。それとも、坂木っちに送ってもらったあと何かあった?実はお持ち帰りされたとか?」
直美が考えもしなかった出来事を言うので必要以上に必死で否定する。
「何もあるはずないじゃない、清水さんも倉持先生もいたんだから。普通にマンションの前まで送ってもらっただけだよ!もちろん、進展があったらって思うけど・・・」
「なーんだ。1週間経って実は連絡とってたって言うし、佳苗一人で勝ち抜けかと思ったけどそれも違うのかぁ。手握られただけであんな挙動不審になる佳苗が、酔っ払った振りして家にあがらせるとかしなさそうだしねぇ」
車に乗り込むときのことを言われて、そんな風に映っていたのかと思うと坂木さんもきっと呆れただろう自分の経験値を嘆くしかない。
それに、個展を見に行って、ネックレスを返してもらったら途切れてしまうだろう付き合いだと思う。
持ち物先の貸し借りがある間だけの、期間限定の関係。
折角知り合ったし、心地よい関係を続けられたらいいけれど、とても続けられるとも思えない。
親のものとは言え、運転手付きの高級車があるような経済力は一般家庭の私とは生活レベルが違いすぎるだろう。
あわよくば、なんて思う気持ちもほのかに抱いているけれど、諦めの気持ちも強い。