黄昏と嘘
・ルームシェア
チサトは今日、食事当番だったことを帰りの電車の中で思い出し、駅に着いて早足で家に帰る。
実はチサトは石田 モモカという30代の社会人女性とルームシェアをしている。
モモカは瀬戸内、香川県の出身で東京にはもう住んで10年以上になるらしい。
東京生活が長いせいか話す言葉もきれいな標準語だけれど、時々実家へ電話をかけているのかそんな時は讃岐弁に戻る。
チサトは彼女の話すその不思議なイントネーションがとても好きだった。
以前、その事を言ったらモモカは「そんな方言使ってるって意識してないんだけどなあ」と少し顔を赤くして照れるように笑っていた。
年上の女性に対して失礼かもしれないけれど彼女はそんな彼女が可愛く思えた。
彼女の年齢は正確に30いくつかは不明で、彼女自身も「もうアラフォー近いんだから」なんて笑っているけれど外に出て働いてるだけあってとてもそんな風には見えない。
どう見ても20代半ばくらい、いつもキレイに化粧をしてブランドの服を着ていてもそれはまったくわざとらしくなく自然体。
そしてモモカからはいつも大人っぽい香りがする。
きっとそれは香水のせいだろうけどチサトを大人の女性に憧れされる、甘美でいてでも凛とした香り。
彼女にぴったりのイメージだった。
仕事に行くときの姿も朝早いというのに隙のないくらいにきっちりと用意している。
それに比べチサトは授業が1講目からであってもモモカの方が先に家を出て行くために彼女の支度の音でやっと起きることもあって、のろのろと部屋から出てくる。
「かっこいいなあ」
そう思いながらいつもボサボサ頭のパジャマ姿で玄関まで彼女を見送る、それが日課になっていた。