黄昏と嘘


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ピアノ・・・?


金曜の朝、どこからか聴こえるピアノの音でチサトは目が覚めた。
アキラがクラッシックのCDでもかけているのだろうか。
彼が帰宅した翌朝、いつもチサトが目覚める頃にはアキラの姿はないのに今日はゆっくりしてるようだった。

そのピアノの旋律はどこかで聴き覚えのある、やわらかで切ないものだった。
窓からは優しい朝の日差しが差し込み、気持ちも良くいつの間にかチサトもベッドの中でうっとりとその音に聞き入っていた。

でも、音色は少しおかしく、よく耳を澄ませて聴いているとCDから流れてくる音にしては妙にリアリティがあった。

CDじゃない・・・?
だったら先生がピアノとか?・・・まさか。
そんなイメージはないって。
それにこの家の中にピアノなんかあったっけ?

チサトはぼんやりとしたまま、最初、ここに来たとき案内された部屋をゆっくりと思い出してみるが、全くピアノの気配はなかった。
そう考えながらも彼女は「あ、」と思い出した。
もしかしたらあのとき案内してくれなかった部屋、もしかしたらあの部屋にピアノがあったのかもしれない。

だとするとピアノを弾いているのはやはりアキラなのか、そう思うとどうしても、確かめずにはいられなくなってきた。

彼女はベッドから抜け出し、部屋を出て、音のする方へと向かう。


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