黄昏と嘘
「……先生?」
いつまでも黙ったままのアキラにチサトは声をかける。
「あ、ああ……だから、キミ、今、時間はあるか、と聞いているんだ」
「……はい…。今日、学校は午後からなので少しなら時間ありますけど……」
チサトはそこまで言ってやはりさっきも言われた「キミ」という言葉がやはり気になり、一旦、止めようとした言葉を続けた。
「それよりも私、キミって言う名前じゃありません。
日ノ岡 チサトです」
「ここは僕とキミしかいないんだ。キミって呼べばキミしかいないだろう?
なのにどうして名前で呼ぶ必要があるんだ?」
屁理屈だ、チサトはそう思った。
でも相手が相手だからそんなこと言えるわけもない。
大学の先生というものはそういうものなのかもしれない。
たくさん知識を持っている分、いろんな考え方を持っていてそれはきっと学生には理解でき難いものも中にはあったりするのだろう、そう納得しようとした。
「……」
そこまで言ったチサトだったけれどこれ以上、アキラに嫌われるのも、そう思い、それ以上の反発はしなかった。
いつか名前を呼んでくれたら、それでいい。
そのいつかが本当にくるのか、今の時点でも結構嫌われているのだから不安なところは残るが。
「……わかりました。えっと、それでなんでしょうか?」
「マンションの下の自販機でマールボロを買ってきてくれないか?」
「……タバコ……ですか?」
「そうだ」
そう言いながらアキラは身支度をする。