黄昏と嘘

でもそのダンボールは彼女の思っていた重さを軽く超えており、2,3歩進んで立ち上がったときよりも足元が覚束なくなる。

一度、下ろして持ち直したほうがいいかもしれない、そう思った瞬間、ドシン、と大きな音が部屋に響く。
チサトはリビングの床に敷いてあったアクセントラグに躓いてこけてしまったのだった。

「痛っ……」

思わず声が出てその場に座り込み、打った腰をなでる。
そしてチサトは痛みが落ち着いてもしばらくその座り込んだままでいた。

何気なく、天井を見上げてさっきのアキラのことを思い出す。

自分に声をかけてくれたが彼のほうこそ、きっと何か辛いこと、我慢しているはず。
さっきの言葉は自分に言い聞かせていたのだろうか。

だからあの日、LL教室でも・・・。
そしてまた彼女の脳裏を「大切」な「彼女」の姿が過ぎる。
見たこともないのに。

Gパンのポケットに手をやると紙が指に当たり、取り出す。
無造作に捨てられていた楽譜。
彼女はキレイにしわを伸ばしてこうして大切に肌身離さず持っていた。

感情的な言葉はなにひとつない。
演奏のためのメモ書きがされているだけなのにそこからは幸せそうな雰囲気が伝わってくる。


きっとこれは・・・。


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