黄昏と嘘

しかし考えたところで当事者ではない限りそんなことはわからない。
チサトは楽譜を小さく折りたたみ、ポケットに入れる。

胸の苦しさを少しでも落ち着かせるように上を向いて大きく息を吐く。
しんと静まりかえった部屋の中、真夜中のせいか電灯が明るく部屋を照らしているはずなのに、その光は彼女の目にも届いているはずなのに。

なぜか暗闇の中にいるように感じた。


それから少しして、チサトは捲れてしまったラグを手を伸ばし、再びダンボールを抱えようとした。

そのとき、横からすっと手が伸びてきた。

え、と思ったその瞬間、彼女が重たいと感じていたダンボールが軽く感じ、驚くチサトが見上げるとそこにはさっきまでチサトが苦戦していたダンボールを軽々と抱えるアキラが立っていた。


怒られる……!


チサトは自分のたてた音がよっぽど大きかったから驚いてアキラが部屋から出てきたのだと思ったのだ。

そんなこと思うと同時にチサトの目に入ったのは背広を脱いでネクタイを解いた彼の姿。
その姿は、あのピアノを弾いていたとき以来だ。

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