黄昏と嘘

チサトは彼がいつもスーツをきっちりと着た姿しか見たことなかったから、そしてあのときも遠目でしか見ていなかったから、今、こうしてはっきりと目の当たりにすると心臓の音が彼に聞こえるのではないかと思うくらいにどきどきと鳴り始めた。


やだ、どうしよう。


目のやり場に困りながらも気になってアキラの方を見る。

「僕が持って行くから」

「え・・・?」

思ってもなかったアキラの言葉に頭の中が真っ白になってしまい、驚く表情を見せるチサト。
いつもならきっと夜中に大きな音を立てるんじゃない、と怒ってくるはずなのに。
でも今夜は怒ることもなく、おまけに彼女の荷物を部屋まで運んでくれると言っているのだ。

「早く、その手を離しなさい」

「あっ・・・、ああ、はい」

いつまでもアキラが抱えているダンボールの上に手を置いているチサトにさっさと片付けたそうに言った。


あ、そうか、そういうことか。


チサトは彼がいつまでもこんなところでもたついていられることがただ、鬱陶しいと思っていて、やってきただけで彼女に対し、助けたいなどという感情は毛頭なかったようだったと納得した。

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