黄昏と嘘
「あ・・・ありがとうございます」
そう思いながらもチサトはアキラに礼を言った。
それでもどんな理由であれただ、助けてくれる、そんな彼の言動が素直に嬉しかった。
助けてくれることには変わりないから・・・、
ダンボールを抱えて歩くアキラの背中を追いかけながらチサトは思った。
「それでも、あの、ありがとうございます」
「『それでも?』」
アキラはなぜチサトが「それでも」という言葉をつけたのかわからなかったようだ。
それは当然だろうけど。
チサトはそんなアキラの言葉にも嬉しくて笑顔になる。
彼は背中で彼女の声のトーンからさっきまで泣いていたのに今はもう、笑っているのだろうか、そんなことを思った。
以前、いつまでも返事をしないチサトに思わず声を荒げてしまった時。
あの時の心細げで、頼りなげな声。
泣いてしまうかもしれないと、言葉が止まり、彼女を見ることすらできなかった。
さっきもあの時と同じだと思った。
ずっと自分に背を向けていたから実際の表情はわからなかったけれど消え入りそうな声を聞いたとき、以前のあの時と同じだと確信したのだ。
あの時は確かに自分のせいだと理解できるけれど、今回は何が彼女をそうさせたのだろうか。
それが自分自身にも原因があることをアキラはまだ気付いてはいなかった。
そう、彼女がアキラに好意を抱いているなどという考えは彼の中には全くなかった。