黄昏と嘘
 
なんだか…、今日って最悪。

自分の部屋に戻りベッドにもぐりこみ、頭を抱えてチサトは考える。

こんな事態になるなんて、それまで困っていた電子辞書の行方どころではない。
いい案も浮かばず、一瞬、実家に泣きつこうかと思ってもみたけれど、きっとそれならそれで帰って来いって言われるに決まっている。

そんなこと…、実家に戻って自宅から通学となると3時間は軽くかかるからそれだけは絶対に避けたい。
そうなってしまったら月曜の時事英語研究の授業に出るのにどれだけ早く家を出ないといけないのか。

始発に乗らないと間に合わないかもしれない…。

時計を逆算して考えてみるがかなりそれは彼女にとってキツそうだった。

でも「時事英語研究」の授業だけは絶対に遅刻したくない。まして欠席なんて、そんなの有り得ない。

でも新しいところ探すにしても住むのに保証人が必要になってくるだろうからやっぱり実家に頼ることになってしまう。
どうにかして両親にわからないように、なんとか新しいところに住む方法ってないだろうか。

カノコのところにしばらくやっかいになろうか…、そう考えてみたけれど彼女の部屋はワンルーム。彼女の怒ったような困ったような顔が思い浮かび、やっぱり無理、そしてチサトは頭を左右にブルブルと振る。

こんなことになるなら始めから適当なところで1人暮らしをしてればよかった、学生の分際で妥協なんてしたくないなんて思わなければよかった、でもそう後悔してももう遅い。

モモカのような立派な社会人ならともかく学生はどこまでも学生のガキなんだと今更、理解する。

そんなことを考えるチサトの頭の中からはもう「電子辞書」という言葉は綺麗サッパリと消えていた。

そして彼女はいい案も浮かばないまま眠りに堕ちていった。

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