黄昏と嘘
「もうっ!どうして思い通りにならないのっ!なんか腹立ってきた!」
思わずイライラを言葉にし、乱雑にボウルを揺する。ボウルの方に気を取られていると少しして、部屋中に焦げた臭いがし始める。
「え?なに?」
チサトがその臭いに気づきコンロの方に目を向けるとフライパンから黒い煙が出ているのが見えた。
びっくりして慌てて火を止めようと手を伸ばしたが、今度は調理台に置いていた赤ワインの入ったビンを倒してしまう。
チサトはすぐにビンを建てなおしたけれど中身は半分以上こぼれて一面が赤紫色になった。
「ああ、もう最低っ!」
そしてチサトは落胆したような、八つ当たりのような、どうしようもない声をあげる。
彼女の目の前にはこぼれたワイン、粉だらけの床、そしてフライパンには焦げた鶏肉。
ため息を漏らし、泣きそうな顔になるチサトだったが今はそれどころではない。
早く片付けないとこんなに汚れたキッチンをアキラに見られては怒られてしまう、そうなっては元も子もない。
彼に食事を作る、そう思ってやっているのにあまりにも悲惨なキッチン。
これでは怒られてしまうかもしれない。