黄昏と嘘

少ししてリビングのドアが開く音がして同時に聞えた声。


「な、なんなんだ・・・?これは・・・」


帰ってきたアキラがチサトのいるキッチンにやってきて呆れながら言った。
いつもなら先に自分の部屋に行くはずなのに。
おそらく部屋中の変な臭いが気になって確かめるためにそのまま直接、ここに来たのかもしれない。


「えっと・・・ちょっと料理に失敗しまして・・・」


怒られる、そう思うとチサトはアキラの顔もまともに見れず言い訳しながら肩を落として項垂れる。
廊下に立たされる小学生のようにじっとしているチサトだったがアキラは彼女に怒ることもせず、彼女の手にあったキッチンクロスを取った。
チサトはその瞬間、あっ、と思い、アキラの方を見ると彼はもうすでに汚れたテーブルを無言で拭き始めていた。


「すみません・・・」


これは絶対に怒っているはずだと何も言わない彼からチサトは感じた。
アキラの姿を見ながらチサトは謝り、急いでもう1枚キッチンクロスをカウンターの引き出しから取り出してかかんで粉だらけになった床を拭く。




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