黄昏と嘘
「私、もう行くけど……。あとの用意は自分でやってね。あ、そうそう、それからおにぎりを作ったの。テーブルの上にあるからよかったら学校へ持って行って今日のお昼に食べて?」
そう言いながらモモカはテーブルを指差す。
「え……?」
チサトがテーブルに視線を向けるとそこには可愛い猫のキャラクターのクロスの包みがあった。
「あ……ありがとうございます」
そう返事しながら、チサトはそのままテーブルの席に着き、大きめのマグカップにお茶を入れる。
テーブルの上にはモモカが作ってくれたご飯と玉子焼き、味噌汁が美味しそうに湯気を立てて並べられていた。
そんなチサトを見てモモカはふっと笑顔を見せて慌ただしく出かける用意をする。
「いただきます……」
モモカもまたチサトに何か伝えようと思っていたが時間もなくなり
「じゃ、私、行くね」
それだけ言ってダイニングを出て玄関へと向かう。
少ししてチサトはハッとして顔を上げ、慌ててマグカップを持ったまま彼女を追いかけて玄関先で赤いハイヒールを履こうとしているモモカを呼び止めた。
「あっ……ちょっと……!」
いつ見てもモモカは完璧でステキな女性、そして同性の自分が見ても時々ハッとするくらいの美人だ、チサトはいつもそう思う。
彼女にとってモモカは憧れの女性であり、自分もいつか社会に出たら彼女のようなひとになりたいと思っていた。
……なんてそんなこと思ってる場合ではない。
違う、違う、チサトは首を左右に振って彼女に言った。
「えっと……昨日の……!」
呼び止めたものの、こういうときチサトはどうもうまく言葉が出てこない。どうしようかと思いながら結局はそのまま持ってきたお茶の入ったマグカップからの湯気を見つめるだけだった。