黄昏と嘘
いつもアキラの迷惑にならないように、邪魔にならないように、今まで思って過ごしてきたけれど、気遣いしすぎることを止めてからは時々そんな思いを超えてしまう時がある。
そう考えることは結局、彼女自身あとで自分の言動に後悔し、落ち込んでしまうことになってしまうのだが。
彼女が止めたというだけであってアキラは何も変わってはいないかもしれないのに。
結局のところ、気遣い云々も単なる自己満足であり、彼女の言動はアキラに嫌われる原因へとつながる。
わかっている、わかってはいるのだけれど。
廊下を歩きながらどうしようかと躊躇してみるものの、やはりチサトは「どうしても」、そんな気持ちからを納戸へと向かう。
そのさっきチサトに浮かんだ考えというのはアキラと同じ時間を過ごせるチャンスかもしれないのだから。
そう、チサトは「時事英語総合演習」の本を口実に大胆にもアキラを本屋に誘おうと思ったのだ。
でもいろんな思いが交錯し、長い間、廊下を行ったり、来たりを繰り返していた。
いつまでもこんなところで動かないでいたら、夜になって出かけるチャンスもなくなってしまう。
そしてやっとのことでチサトが納戸の入り口のところからそっと中を覗くとアキラはそこで本の整理をしていた。
背の高い横顔、いつ見てもはっとするくらいにキレイで完璧だ。
彼女はそんなアキラをしばらく見つめたあと、緊張しながらも声をかけた。