黄昏と嘘

「・・・先生?」

しばらくアキラの返事を待ってみるが、こちらを向く素振りすらない。
聞こえなかったのだろうか、それとも無視されたのか。
彼は手を止めることなく本を並べなおしたり、取り出したり。

チサトはそんな彼の反応にさっきまでの気持ちが少しくじけてしまい、声をかけなければよかったと後悔する。
彼女は聞こえなかった、のではなく無視された、と感じ取ったのだ。

でもきっと聞えているはず、でなくても彼女の存在には気付いているはず。
だったら今更、引き下がることもできず、チサトは静かに深呼吸して今度はちゃんとはっきりと要件を伝えてみる。

「あの・・・今年度の「時事英語総合演習」もう発売されてるんですけど・・・あの、・・・一緒に行ってもらえ・・・?」

今までにない勇気を出して言ったせいか、最後の言葉は消え入るようにフェードアウトしてしまった。

「・・・」

やはり彼は返事をする様子もない。
チサトがそこにいることさえ気づいていないような態度だ。

どうしていっつも先生ってこんなんなんだろう。
なんかこういうのにも慣れたけど。

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