黄昏と嘘
もうこの時点で彼女の中では常々思っている、アキラに迷惑かけないように、そんな思いも消えてしまっていたようだった。
「先生っ!ひとと話するときはちゃんとこっち向いてください!」
そんなチサトの声にやっとアキラが少し驚いた顔をして本を抱えたまま振り返る。
アキラにしてみれば今まで自分に対してそんな風に意見する人間はいなかったから驚いてしまうのも当然だ。
「言うことを聞いてもらえないからってそんな風に言うのはまるで子どもじゃないか」
「そうです、子どもです。
本を選ぶことすらできません!
だから一緒に行ってください!」
「は?何わけのわからない・・・」
必死になっていうチサトだがアキラはあくまで冷静に、そして呆れた顔をしながら答える。
冷静なアキラを見て自分も冷静にならなければ、と思うものの感情が言うことをきいてくれない。
彼女は本当に彼が言うように駄々をこねる子どものように懇願する。
「私、子どもだから・・・一緒に行ってください!
お願いしますっ!」
「だから、ひとりで・・・」
「無理ですっ!」
「・・・」
チサトは両手をぐっと力を入れて握りしめ、彼を見据える。
しばらく沈黙の続いた後、結局、そんなチサトに根負けしたのかアキラはため息つきながら
「仕方ない」
そう言って付き合ってくれることになった。