黄昏と嘘
「先生、いい天気ですね?」
チサトは少し高くなった空を見上げ、笑顔で話しかける。
外はもうすっかり秋で日差しもやさしくて涼しい風が気持ちいい。
それもあってか彼女の気持ちは高揚する。
結局、マンションを出たときは夕方近くになってしまったが、それでも今日は日曜日のせいか、たくさんの人で街はごった返していた。
「あまり人ごみは好きじゃないんだ・・・」
アキラはひとりごとのようにそう呟いて、早く用事をすませたそうに本屋へ急ぐ。
彼のマンションから少し歩けば駅前の繁華街の方に出る。
そしてその繁華街には本屋が2軒ほどある。
少し歩き大きな通りに出て、その間、ずっとチサトが一緒にいることを忘れてるように彼はひとり、さっさと歩いてゆく。
チサトはその後を少し息を切らしながら追いかけるように歩いてゆく。
「待ってくださいよ、先生!」
チサトの声が聞こえているはずなのにアキラは振り向くことなく無視して勝手に歩いてゆく。
それでも、そんな状態でも、アキラとふたりきり、そう考えただけでチサトはもう嬉しくて仕方ない。
私、すごく、浮かれてる。
他の人たちから私たちってどんな風に見えるんだろう。