黄昏と嘘
アキラの後に続き本屋に入り、自然とふたり、別れて目的のコーナーへ向かう。
一緒に本を選ぶ、ということはせず、難しそうな本の並ぶコーナーにいるアキラの元にチサトが選び、見つけた本を持ってゆき、適切なものか判断してもらう。
そしてそれを何度か繰り返す。
はじめからアキラは一緒に本を選ぶということまでは考えてなかったし、チサトにしてもこういう状態になることは予感していたから特に思うこともなかった。
ただ一緒に並んで歩いて本屋に行けた、というそれだけ彼女は嬉しかった。
「……これでいいんじゃないのか……? 」
アキラは3回目にチサトが差し出した5冊ほどの本の中から2冊選び、再び彼女に返す。
チサトはその本の中を確認しながら
「そうですね……。これにします」
嬉しそうにそう答えて、その本を大事そうに抱えてレジへと向かう。
アキラはそんなチサトの後ろ姿を見つめる。
本当にチサトは忙しいくらいにくるくると表情が変わる。
はじめは関わらないように冷静に遠目から接するよう心がけていたアキラだったが、でもいつの間にか巻き込まれ、同じように感情が動き始める。
今はもう何があっても心が動じることもなく、日々を淡々と過ごすだけだったのに。
それは忘れようと、そしてやがて忘れかけていた感覚。
しかし彼はまだその事を気付かず否定し、自分の感情が騒がしくなることはチサトのせいであり、それを嫌悪として彼女の存在を鬱陶しいものと認識していた。