黄昏と嘘
「先生、どっちのグラスがいいですか?」
チサトは嫌がるアキラを無理矢理、通りにあった小さな雑貨店に連れて行き、2つのグラスを持って見せる。
しかしアキラはグラスを見ることもなく適当に余所を向いて返事する。
「ああ・・・」
「それじゃどっちかわからないじゃないですか。
だいだい見てもないし」
「見ている」
アキラはそう答えるがチサトからしたら彼が真剣にグラスを探しているようには全く思えない。
やっぱり付き合ってもわらずに自分ひとりで選んで買ったほうがよかったのかもしれない、と考える。
それでも一緒にこうして店にいるのだからアキラに選んでほしい。
彼は不快に思っているかもしれない、でも彼女はそう感じながらも心のどこかで少し浮かれていたのも事実だった。
「もう!どっちですか!」
「だからどっちでも構わない」
「せっかく一緒に来たんだからちゃんと選んでくださいよ!」
チサトは周りのことも目に入らなくなり、だんだんと声が大きくなる、やはり浮かれている証拠だ。
そしてまたアキラの方もそんな彼女に引き込まれ、少しづつ冷静さをなくしているようだった。