黄昏と嘘
この場所が大学ではないせいなのか、嫌々でもここまで一緒に来てくれたせいかのか、チサトはアキラのことを怖がることもなく、今までのような少しの彼の言動に気遣うこともなくなってゆく。
アキラのほうもまたそんなチサトに対し鬱陶しいという思いはなかった。
「キミが一方的に連れて来たんじゃないか!」
「とにかく!どっちですか!」
棚に綺麗にディスプレイされていたグラスを2つぐっと掴み、チサトはそう言いながらアキラの目の前に差し出す。
しかしアキラは何かに気付いたような表情を見せたかと思うと、急に驚いた顔になってグラスの向こう側を見ていた。
「……?」
「お…おい…」
そう言いながらもアキラは視線をはずそうとしない。
チサトはそんな彼の表情が気になり、後ろが気になって振り向こうとした時、
「振り向かなくていい!行くぞ?」
それだけ言って急に走り出した。
え?ちょっと……。
チサトはわけもわからずアキラの言われた通り振り向かず彼の後を追いかけて走る。
店のドアを勢いよく開けて、通りに出る。
日曜だけあってひとが多く、すり抜けるように走るアキラを見失わないように、チサトは必死になってついて行った。
チサトの背後で何が起こったのか、全くわからない。
とても気になったけれど振り向くなと言われた以上、振り向くわけにもいかない。