黄昏と嘘
lesson 3

・フェラガモ


一緒に本屋に行ってから、アキラのチサトに対する態度が少しだが緩やかになったように彼女は感じていた。
だかと言って日常にそう大きな変化はなかく、相変わらずの日々が続いていた。

チサトにとっては夢のような出来事であったとしてもアキラにしてみれば、特にたいしたことでもない。
だいたい嫌々、付き合わされたのだから、勝手に都合よく思いこんでいるだけだから、自惚れるな、
彼女はそう自分に言い聞かせていた。

アキラはアキラで「チサト」という存在がますますわからなくなっていた。
気づけば彼女に巻き込まれ、やはりそれが最初の頃よりも不快には感じていない。

今までひとと接していてそんな風に思うことはなかった。
1人になる前までは。

とにかく、誰にも関わりたくなかったし、誰にも自分に干渉してほしくなどなかった。

少しづつ動いている感情が何なのか、そんな普通に考えればわかるかもしれないことであっても、お互いの社会的立場が余計に彼を混乱させた。

3ヶ月間だけ。

そんな約束も彼の頭から少しずつ消え始めていた。




< 187 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop