黄昏と嘘
チサトはそのカノコの言葉にふう、とひとつため息をついて、それから黙っておこうと思っていたはずなのに堰切ったように昨日の出来事を愚痴っぽく話し始めた。
誰が悪いのでもないけれど、でも、だから、文句の言いようもない。
そのせいか話し方はまるでカノコへの八つ当たりのようだった。
出て行かなければならない、それだけのことになぜこんなに気分が悪いのか、改めて考えてみるも、理由は簡単、出て行ったところでチサトの行き先はないからだ。
「ふーん……」
カノコは他人事のようにチサトの話を聞き、そして一言。
「もう実家に戻るしかないんじゃないの?」
なに、簡単に言ってるのよ、同郷なんだからわかるでしょ?
実家に戻るとここまで来るのにどれくらい時間がかかるのか……。
そう言い返したかったけれど。
やっぱりそれしか方法はないのか……、と何も言えなくなってしまった。
でもそれだけは絶対に嫌だから困っているのだ。
こんな私の思いって彼女にはわからないのだろうか、わからないだろうなあ。
「あーあ。なんかすごいパトロンでもいたらなあ」
チサトの複雑な思いはそんな現実からかけ離れた言葉となって出る。
突拍子もないチサトの言葉に声を出してカノコは笑う。
でも本当に、そんなひとがいない限り、このまま東京で暮らすことはチサトにとって難しい。
「なーに言ってんのよ?そんなの有り得ないでしょうが。現実を見なさい。現実を」
「へーへ、わかりましたよ」
適当な返事をするチサトにカノコは手のひらをチサトの前でひらひらとさせながら「真面目に考えなさいよ」と呆れたように言った。
そして彼女はそのあと「あ」、と思い出したように話題を変えた。
「あ、そうそう。小野先生のことなんだけどさ……」