黄昏と嘘
急いで床に落ちたリモコンを取ろうとした時、リビングのドアが開く。
チサトは手を引っ込めて慌ててそのまま丸くなって寝たフリをする。
DVDは止めることができず、そのまま映画のストーリーが進んでゆく。
ぎゅっと目を閉じたチサトの心臓はどきどきと鳴り始める。
どうしよう、どうしよう・・・。
アキラの表情が、行動が、とても気になったが確かめることもできない。
彼がこの映画になにかあるのか、なんてわからない。
ただ、この映画で流れていた曲を弾いていたから。
それだけだったけれど。
でもチサトにしてみれば、わからないけれど、なにかあるかもしれない。
そんな思いだった。
彼は悲しいところからずっと遠いところにいてほしかったから。
映画を観ることで、あの曲が思い出されない、とも限らない。
だから。
少ししてアキラの気配が部屋からなくなり、一瞬ほっとしたチサトだったが、でもすぐにまた彼は戻ってきた。
チサトはどうしたんだろうか、と思ったと同時に、ふわり、と背中に柔らかいものが当たる。
それはアキラがチサトにブランケットをかけたのだが彼女は自分に何が起こったのか、全く理解できなかった。