黄昏と嘘
そして彼はチサトの眠っている横に腰を下ろした。
え・・・、先生・・・?
チサトは彼が彼女にブランケットをかけてくれたこと、そして隣に腰掛けたこと、それを理解することで心臓はさっきよりも大きく鳴り始める。
彼女はとりあえずここは起きない方でこのままでいたほうがいいと判断して、眠ったフリをした。
そしてかけられたブランケットで顔を隠しながらアキラの表情を見ようとするが部屋を暗くしたせいでよくわからない。
でもチサトはなんとなくアキラは・・・その映画の向こうの・・・何かを見ているのかもしれないと、頭の隅の方で思っていた。
そう思うと、彼の表情は見えないほうがいい。
映画からの音声以外はなにもない、少しの沈黙。
「起きて・・・るんだろう・・・?」
アキラが画面を観ながらチサトに話しかける。
でもチサトは何も答えなかった。
なにをどう答えていいのかわからなかったのだ。
起きているんだろう、と言われたが、彼はどんな表情をしているのか確認することから、何を言葉かけすればいいのか、そこから逃げて、ただ、今は自分が眠っていることにして、息を殺してじっとしていることに必死だった。
すると今度はためいきをつきながらアキラは言った。
「まあ・・・かまわないけど・・・。
でもこんな、古い映画・・・、しかも、よりによって・・・」
彼の言葉はだんだんと小さくなり、空に消えた。