黄昏と嘘
――梅雨も近い午後、LL教室。
黄昏の中。
突然、チサトが自分の前に現れ、驚きと戸惑いの中、そしてそのときの彼女の表情が―。
自分の思いが伝わってしまったような、そんなふうに見えた。
彼自身の中にある、重苦しく、苦々しい思い。
あの日、「彼女」には新しい恋人ができたと噂で聞いた。
一緒にいた頃もいつも哀しませ、苦しませていた、「彼女」。
だからその後もずっと「彼女」がひとりでいたのは自惚れかもしれないが、そのまま、まだ自分が苦しませ、哀しませ続けている、そのせいだと思っていた。
自分と「彼女」をつなげているのは「苦しみ」。
そんなことでしか、繋がっていることができない、でもそれで余計に罪悪感が大きくなっていく。
それだけに恋人ができたという噂でいつの間にか、涙したのはアキラにとって罪の意識から解き放たれた思いからなのか、それともまだ「彼女」への思慕が残っていたのか・・・。
彼自身でももうわからなくなっていた。
思えば、あの日、チサトと出会ってからアキラは知らず知らずのうちにこころが動き、感情もまた動き始めていたのかもしれない。
あの夜のことにしても、自分が帰るといつも静まり返っているはずのキッチンにひとがいたのを見たとき、一瞬「彼女」かと思ってしまった。
もうずっと自分が帰ってもキッチンにひとがいる、ということはなかった。
まさか「彼女」かと、そう思ったら表情が強張り、驚きを隠すことができなかった。
でもそれが「彼女」ではなく日ノ岡チサトだと、そう理解したとき、なぜかアキラは安堵した。
アキラのチサトへの想いは確実に少しづつ変わっていた。
その想いがなになのか、まだそこには辿り着いてはいなかったが。