黄昏と嘘
この真っ暗の部屋の中で。
ぼんやりとテレビ画面だけがチラチラと明るくて・・・聞える英語の会話。
聴こえるピアノの旋律。
そう、それはアキラの奏でるノクターンと同じだ。
そしてソファで猫のように丸くなって寝たフリをしているチサト。
彼女の上にはアキラがかけたブランケット。
そんな彼女の隣で映画を観ているアキラ。
そんな、お互いの距離が近付きつつあることを、まだふたりは気付いてはいなかった。
そしてチサトはずっと黙り続ける。
アキラのことが気になって仕方ないけれどまだ何をどう言えばいいのかわからなかった。
少しして、アキラをそっと横目で見る。
初めの頃は。
ドアの向こうからしか会話がなかったのに、気がつけば同じ部屋で会話するようになって。
今はこうして同じソファで同じ映画を観ている。
先生がどんな思いでこの映画を観ているのか。
あの女性のことを思っていることくらい・・・、先生は映画の向こうの・・・何かを見ていることくらい・・・、なんとなく察しはつくけれど。
でも先生が・・・どこか遠くの、誰かを見ていても構わない。
こうしてそばにいるだけで。
いさせてもらうだけで。
それだけでいい。
この時間は私にとって至福のとき。
映画・・・終わらなければいいのに。
このまま時間がとまればいいのに。
明日なんか来なければいいのに。
永遠に。