黄昏と嘘

翌朝―。

チサトが起きてリビングに行くと、今日はゆっくりなのかアキラがいた。
彼はノートパソコンに向かい、作業をしているところだった。

昨夜はあれから映画が終わり、アキラが彼女に声をかけてもその時にはチサトも彼が近くにいることで今度は安心したのか、本当にそのまま寝入ってしまった。

そしてアキラも寝静まった真夜中に目が覚め、そっと自分の部屋に帰ったのだった。



「あの、・・・お・・・おはようございます」

チサトは戸惑いがちにアキラに挨拶をするが、彼はチサトの方を見ることもなく一言だけ答える。

「ああ、キミか・・・」

そっけない返事だけれど、以前は知らない顔されることもあったから、それだけでもチサトは十分に嬉しかった。
なんでもいいから応えてくれる、ということはアキラがちゃんとチサトという存在を認めているということなのだから。

それでもチサトがひとつ気に入らないのは、相変わらずアキラは彼女のことを「キミ」と呼ぶことだった。
はじめのころはまあ、仕方ないか、そのうち名前を呼んでもらえるだろう、なんて思っていたけれど、全くかわらないアキラに最近はどうも納得がいかなかった。
そう思う、ということはアキラが少しでも変わり始めている、ということにチサト自身、無意識にどこかで思っていたせいなのかもしれない。

「キミ」と呼ばれることにチサトはやっぱり慣れない。

「先生、・・・いつまで私のこと、「キミ」って呼ぶつもりですか?」

朝、起きてまだ頭がちゃんと働かないまま、意識のどこかでまた屁理屈で返されるんだろうな、と思いながら言う。


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