黄昏と嘘
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あ……小野先生だ……。
広い大学といえどこうして授業がない日でも廊下や食堂ですれ違うことがある。
そして今、廊下ですれ違った。
今日は会えないのかな、と思ってたのに、そんなささいなことでもチサトは嬉しくなる。
4講目も終わって黄昏の中、チサトはカノコと待ち合わせた厚生棟のラウンジへと向かうところだった。
今日の彼は白ベースのストライプシャツ、涼し気な淡いブルーのネクタイ。
それから濃いグレーのスーツ。
……相変わらずの無表情。それは人をよせつけないほどに。
いつもきっちり背広を着てるなあ、今くらいの時期になると暑い、と思う日が増え、うちの大学ではスーツを着ていない先生の方が多くなるのに。
チサトはアキラを見つめ感心する。
贔屓目でなくてもいつもアキラは常にスキがないくらいにきっちりと背広を着こなしている。
きっと堅物だとか冷たいとか言われる所以、少しはそのせいもあるのだろう。
怖い、と敬遠されながらもやっぱり整った顔立ちのせいか、ステキな先生だなんて言っている女子学生がたくさんいることもチサトは知っていた。
でもそうは思っていてもやがてアキラの冷淡さを目の当たりにし、離れてゆく。
それが普通の女性の反応だ。
彼の性格を知って、それでもいつまでも慕っているのはきっとチサトくらいだ。
だからカノコもチサトは変わっている、といつも言うのだろう。