黄昏と嘘

先生の「大切」な「彼女」は先生のどこを好きになったのだろうか・・・。
はじめから先生があんな冷たいひとだったとは思えない、だからきっとその彼女は先生の本当を知っているのかもしれない。
そしてそれは当然、チサトの知らないふたりだけの時間。

結婚までしたんだもの。

そう思うと「彼女」のことがとても羨ましく、そして悔しい。
でも、じゃあ、どうして離婚したのだろうか。

……、そこまで考えてチサトはふと気づく。
どうして図書館で話していた女性が離婚した相手だと思ったのだろう。
変なの、なに、自分勝手な想像してるんだろう。
彼がそう言ったわけでもないのに。

チサトがこんなにもアキラのこと考えていてもきっと彼はそれを知る由もない。
だいたいチサトの存在さえ知っているかどうかもわからないのだ。
彼の授業を履修しているといってもそんなにチサトは目立つ存在でもないし、すすんで自分から質問もしない。
数ある学生の中のひとり。

ただ、チサトとアキラの共通点なんて「時事英語研究」の授業しかない。

そしてそれはチサトにとってはとても大切な時間であったとしても彼の中のほんの一部のことであって、本当はアキラについて知らないことのほうが多いこと、取るに足らないもの。

そんなことを思い、チサトは胸の奥がきゅうっと苦しく締め付けられるような思いがした。


< 22 / 315 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop