黄昏と嘘
でもアキラはもう何も言わなかった。
アキラはその後の言葉は言ってはいけないと、止めたのだ。
彼女が自分の前から走り去った後、アキラはしばらくチサトを探したが結局、見つけることができなかった。
どうしようかと思ったけれどおそらく地下鉄を利用して帰る彼女のほうが先に家にいるだろうと、それから急いで車で帰宅したが家には誰もいなかった。
今まで誰もいない家など当たり前の光景だったのに、しんと静まり返った部屋が彼にはいつの間にか違和感を思うようになっていた。
チサトはリビングにも納戸にも彼女の部屋にも、どこにもいなかった。
ひとりでいることに慣れているとそれが当たり前だったはずなのに、誰かと一緒にいるようになってからひとりになると。
・・・彼女を泣かせてしまった。
そしてもしかしたらあのまま怒ってどこかへ行ってしまい、もう帰ってこないかもしれない、そう思ったとき。
ああ、そうか、自分は淋しいんだ。
チサトがいない、そういうことが淋しく、不安に感じている。
彼女の存在は自分にとっていつの間にか・・・。
でもやっとそう理解したところで「淋しい」なんてそんな言葉、ふたりの間柄を考えれば言えるはずもない。
それにチサトはアキラを怖いと思っているのかもしれないのだ。
何より、気付かぬ間に「彼女」の存在が互いの中に影を落とす。
あのとき、彼女はアキラを追いかけてきて必死で庇うような言葉を発したけれど、でも本当のことを彼女は知らない。
もし、チサトがアキラの本当を知ったなら。
それでも彼女は同じように自分を庇うというのだろうか。
・・・わからない。
今はただ、静かに降り続ける雨の音がふたりを包む。