黄昏と嘘

あれ・・・・・・?

ドアの鍵はかかっていなかったのか、少し力を入れるだけで開いた。
どうして?と不思議に思ったチサトは少し開いたドアの隙からそっと中をうかがう。

この後、この教室を使うことはないと思うんだけど・・・・・・。
もしかして、まさか、誰か、いる、とか?

チサトはそう考えると胸がドキドキと鳴り始め、目を凝らして中を見つめる。

教室はいつもチサトが受けているときとはまた違った雰囲気だった。
彼女がいるときも窓から柔らかな日差しが入るのと同様、今も日差しが入っている。

でも違う、授業の時の教室の雰囲気と違う。

同じ教室でも数時間違うだけでこんなにも雰囲気は変わってしまうものなのだろうか。

今のこの時間、授業の時よりももっと頼りなくゆらゆらとしたようなやさしく包み込むような日差しだけれどどこか冷たく寂しくも感じた。
日差しの色が変わったからなのか、窓が開いているのか。
心細げなあかね色に染まったカーテンがゆらりと揺れる。

「あれ・・・・・・」

そしてはっきりと誰がいるとまではわからなかったけれど、隅の方の席で人の気配を感じた。
でもこんな時間に人がいるなんて何かの間違いだろう。

感じたその人影のせいか入ってもいいか、どうしようかチサトは胸に手を当てて戸惑う。
しばらく彼女はぼんやりとドアに手を当てたままの状態で止まる。

あたりはしんと耳鳴りがしそうなくらいに静まりかえり、このままでいるとなんだか別の世界に行ってしまいそうな感じがした。

チサトは静かに息を吐いた後、首を左右に振る。

違う、さっさと用事を済ませて帰らなきゃ。
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