黄昏と嘘
・・・味方に?
なぜだ?
彼女から過去の話を聞いたんじゃないのか?
非難されると思っていたアキラはチサトの意外な言葉に少し驚いた。
しかしアキラは何も言い返さなかった。
言い返さなかった、のではなくそんな風に言われたことは初めてだったから言い返すことができなかったのだ。
今までの自分のやってきたことは振り返りたくもないこととして静かに封印してきたから、今となっては知る人も少なくなり、人から意見されることなどなかった。
そっとチサトの方を見たアキラは哀しそうな表情であり、それでも何か答えてくれるのかと、チサトはどきっとしたけれど、彼は黙ったままだった。
どれくらいの時間がたったのか、少ししてアキラはも椅子から立ち上がり、そのまますっとチサトの隣を通り過ぎ、ピアノの部屋を出て行こうとした。
しかしチサトはこのままではいけないと、慌てて彼の後ろ姿を追いかける。
「待って、待ってください、先生」
呼んでもアキラは振り向くこともせず、部屋のドアへと向かう。
どうしてチサトはそこまで自分に気遣い、言葉をかけてくれるのか。
怖がられているはずなのに。
そんなチサトの態度にアキラはもしかしたら彼女は・・・、と思ってしまう。
しかしそんなことはあり得ない、と思いをすぐに打ち消す。
それより、とにかく今は冷静になったほうがいいと部屋の前まで来てドアノブに手をかけたとき、チサトの声が背後に聞こえた。