黄昏と嘘

チサトがアキラに真っ直ぐ笑いかけるたびに彼のこころが少しずつ揺れ動いた。

どんなに邪険にしてもそれでも健気に真っ直ぐに笑う彼女。
それがいじらしくて。
だからどうしていいかわからなくなってしまった。


「でも・・・私、本当は・・・先生のことが・・・好きなんです・・・」

チサトはカノコからアキラには関わるな、と言われ続けて、せめて想うだけでも。
そう思っていたが、ここまできてしまってもう溢れてくる想いを止めることはできなくなってしまっていた。


「・・・え?」


彼女が・・・?自分を・・・?まさか。


彼女の思いがけない言葉にアキラは動揺する。
ずっと嫌われていると思っていた、ずっと怖がられていると思っていた。
だいたい年齢差も大きいのに、恋愛対象なんてあり得ない。
でも彼女の「好き」という言葉は彼の中で遠ざけていた彼女への想いの「答え」を明確にさせてしまった。


アキラは彼女に手を伸ばそうとするが、ゆっくりと首を左右に振りながら深く息を吐き、チサトの言葉を否定した。
自分にも言い聞かせるように。


「今のキミも僕もどうかしている。
一時の感情に流されてそんなことを簡単に言うもんじゃない。
それに・・・そんなこと、言うなんて、お互いの立場を失ってしまうことになるかもしれない・・・」

「・・・え?」

「キミは学生でなくなり僕は教鞭をとれなくなるかもしれない・・・」

彼はそう言ったものの、またここまで築いてきた立場など彼女のためならどうなってもいいと思っている彼自身もまたあった。


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