黄昏と嘘
恋という感情は時折、ひとを狂わせる。
しかし自分はどうなったとしても彼女にはそんな目に遭わせたくはない。
彼女の哀しそうな表情を見るとこころが痛む。
ああ、自分の中にまだそんな人を気遣う思いがあるなんて。
「キミにはまだ未来があるんだ」
「でも私は先生と一緒にいられるのなら・・・」
そう言ってチサトは彼にそっと顔を近づける。
互いの唇が一瞬、触れる。
先生が、好き。
先生の慰めにさえならないかもしれない。
拒まれるかもしれない。
「彼女」の代わりでも構わない。
チサトは必死だった。
いつも「彼女」のことでアキラを傷つけ、もう二度とそんなことはしないと決めたのに、また同じことを繰り返してしまった。
自分が彼を傷つけてしまったことでこのまま遠くへ離れて行ってしまったら。
そう思うと胸が張り裂けそうなくらいに辛かった。
せっかく、せっかく私と一緒にいることを迷惑だとは思ってないといってくれたのに。
アキラはそんな不意打ちの彼女の行動に、それまで隠していた想いが、誤魔化していた想いが溢れだしてしまう。
彼女がいないことを不安に思ったのは、淋しいと思ったのは、知らず知らずのうちにチサトに惹かれていたということに。
心を誤魔化し、虚勢を張って、いつの頃からか、わかっていたはずなのに認めようとしなかった。
認めてはいけないと思っていた。