黄昏と嘘
側にあった時計を見ると針は午前3時過ぎを差していた。
「まだ・・・こんな時間・・・」
身体を重ねたはずなのにどうしてこんなに距離を感じるのか。
あの時は必死でチサトはただアキラの側にいたいと思った。
でもこんなことになったって、アキラの側にいることができるのは、彼を助けることができるのは、チサトではないのだと改めて思い知らされた。
私は・・・ただ先生と一緒に笑って過ごしたかっただけ。
そう思ってみても哀しいことも辛いこともなにもないところで一緒に彼と笑うことができるのはチサトではないのだ。
たとえ、彼がチサトと一緒にいることをまだ苦痛だとは思っていなかったとしても、彼女自身が望むことは彼が望むこととは異なっている。
そう、それは近くて、とても遠い。
まだアキラの感覚がしっかりと身体に残っているというのに。
残っているから余計に遠く感じるのか。
こうなってしまった以上、ここにはいられない。
新しい住処も見つからない。
だとしたら、もう実家へ帰るしか・・・ないのかな。
そんなこと思うと知らない間にチサトから涙が溢れだし、嗚咽した。
しかし泣いたところで事態が変わるなどということもない。
自分がアキラと一緒にいることはやがて彼にとって、そして自分自身にとっても毒になってゆくのだろうか。
・・・もう、これ以上、嫌なことは考えたくない。
ここを出て行こう。
チサトはベッドの中で何度もここを出て行くことを笑顔で言えるように小さな声でつぶやき練習し、切ない感情を払拭する。
それ以外、余計なことを考えないように。
一生懸命。
そして意識がまた少し遠のいてゆく。