黄昏と嘘

「あ・・・」


アキラはチサトを確認すると戸惑うような表情を見せた。

彼はずっとチサトに嫌われていると思っていた、恐れられていると思っていた。
なのに昨夜、彼女は彼のことを好きだと言った。
その言葉を聞いたとき、抑えきれず感情のまま、想いのまま、彼女を抱いてしまった。

なのにここまできてもいまだに彼女の言葉が信じられないでいた。
もしかしたらあのときは思いがけずそう言っただけであって、今は感情が冷めていて、何も思っていないかもしれない。
後悔すらしているかもしれないと。

でもアキラはあの時、はっきりと彼女に惹かれていることがわかってしまった。
彼はまだなにも彼女に伝えてはいない。

自分を受け入れてくれるか否か、それ以前に自分の想いをきちんと伝えなければと思っていた。
それより先に、今まで邪険にしてしまったことを謝らなければならないのか。

いろんな思いが交錯し、言葉が出てこない。
でもそれはまたチサトも同じだった。



「昨日のことは・・・」


静かな沈黙を破り、アキラが先に言葉を発する。
チサトはその言葉にどきっとして胸に手を当てる。


 (何から、話せばいいのか)

 (何を、言われるのだろうか)



そのとき、ちょうど玄関のインターホンの鳴る音が聞こえた。


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