黄昏と嘘

日曜、10時。

こんな時間から誰がアキラを訪ねてきたのだろうか。
いや、日曜でなくてもこんな時間でなくてもここに訪問者が来るということ自体が珍しい。
チサトがここで暮らし始めてから初めてのことかもしれない。

アキラは立ち上がり、チサトの横をすっと通りすぎて壁にかかるインターホンの画面を確かめる。
チサトはそんな彼を目で追う。


「女のひと・・・?」


チサトは遠目ながらもその画面の中に映るひとを見つめ、思わずつぶやく。
当然それはチサトの知らない女性だ。

そしてそっとアキラのほうを見ると、彼ははっとしたような表情をしていた。
明らかにそれは知っている女性で彼の表情から彼にとってあまりいいひとではない、そう感じさせた。


もしかしたら・・・。
まさか。


チサトの中でずっとこころの奥でひっかかっていた女性。
きっとモモカが言っていたアキラと結婚していた「大切」な「彼女」。

そう理解すると同時にチサトは今、自分がここにいることはアキラにとってよくないことのはずだ。
だったらどこか隠れたほうが、と思い始める。

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