黄昏と嘘
しかしアキラの方を見るとチサトがいることを忘れるくらいに訪問してきた彼女に心を奪われてしまったのか、チサトのことをどうするのか、何も対応もないままインターホン越しに応対する。
「はい・・・」
どうしよう、どうしよう。
アキラが応対する姿を見ているとチサトの中で焦りの気持ちだけがだんだんと大きくなる。
彼と彼女の間でなんの会話がされていたのかはインターホン越しなのでわからない。
でも彼女がここに来る、ということはチサトもなんとなく理解はしていた。
「先生・・・私・・・ここままじゃ・・・、とりあえずどこか隠れたほうが・・・」
そう伝え、焦りながらリビングから出て行き、自分の部屋へと向かう。
「え?おい・・・」
アキラは何か言おうとチサトの方を見たが、チサトはチサトで彼女も心の余裕もなくなっており、返事をするどころでなくなっていた。
チサトはそのまま部屋へ入るとバタンと勢い良くドアを閉めてしまう。
あの女の人が…来るんだ、ここに。私の前に現れるんだ。
閉めたドアにもたれ、そう思うとチサトは倒れそうなくらいの目眩をおぼえる。
隠れた方が、と言いながらもどうしても彼女のことが気になり、扉に耳を当て様子をうかがい、息を殺してチサトは彼女が現れるのを待つ。