黄昏と嘘
彼女が想いを寄せる、小野アキラだった。
夕陽で影になり、しかも後ろ斜め横からの姿ではっきり見えなかったけれどチサトは一瞬で彼だと確信した。
しかし彼はチサトの気配に全く気付かないようで窓の向こうをじっと見つめていた。
いつもと同じようにきっちりと着崩すことのないスーツ、すっと背筋を伸ばし、後ろ姿からでも遠くからであってもそれは近寄りがたく・・・。
の、はずなのに。
同じはずなのに、でも今チサトの目の前にあるその姿はやっと届く夕陽のせいで彼の顔に翳りができていつも冷淡で無表情な彼からかけ離れたとても哀し寂しい感情をもっているように感じた。
チサトはそんアキラの姿に取りつかれたように目を離すことができず、じっと見つめる。
なんて寂しそうで苦しそうな表情なんだろう。
あんな先生、・・・初めて見た。
決して楽しい表情ではなかったけれどそれは彼女にとってそれはとても美しく、チサトは息を殺しずっとその彼の姿を見つめて続けていた。
それから長い時間がたったのか、それとも短い時間だったのか、彼の瞳から突然、一筋の涙が彼の頬を伝ってゆくのが見えた。
同時にゆっくりと吹いていた風が止まった。
うそ・・・。
その瞬間、チサトはハッと我に返ったようにとても驚き、見てはいけないものを見てしまったような気がして手足が震え始める。
どうしよう、どうしよう・・・。
ただ、頭の中でその言葉だけがグルグルと回る。
ダメダ、ココニ、イテハ、イケナイ。
もうひとりの彼女がガクガクと震える彼女に必死に伝える。
そう、ダメ!
早く、早くここから出て行かなくては。