黄昏と嘘

彼女を見たところでどうなるというのだろうか。
チサトの中で彼を諦めるという思いでも生まれてくるのだろうか。

感情なんて理性でどうにもならないことが多い。
特に恋愛に関しては。
彼女の姿を見たところでチサトはやはりアキラのことを諦めることもできず、ただ自身傷ついてしまうだけなのだ。

傷つくことはわかっている、わかっているのに。

しばらくして玄関の方で音がする。
そしてその物音から彼女の部屋の前を通り過ぎる気配がする。
チサトは胸の辺りで指を組み、ぎゅうっと目をとじる。

少ししてキィとリビングのドアが開く音が聞えた。
静かにふたりは何の話をしているのだろうか。
ドアが閉まった瞬間からチサトは気になって仕方がなかった。
そして気付けばチサトはゆっくりとドアを開けて部屋を出てリビングへと向かう。


もし、見つかったら。


それでもチサトはどうしても確かめたかった。
彼女がリビングのドアの所まで来て少しだけ開いたドアの隙間から中を確かめようとしたとき、ドア心臓がどきんと鳴った。


この香り・・・。


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