黄昏と嘘
チサトは彼に気づかれないようにドキドキする心臓を抑えながらなんとか冷静を装って教室を出ようとする。
でも焦れば焦るほど足がすくんでしまい、もつれるように椅子に足をひっかけてしまう。
ガタンッ!
しまった!そう思ったときはもう遅く、チサトは転倒してしまわないように身体のバランスを取ろうと手を机に掛けたとき今度は机にあったヘッドフォンを落とし音をたててしまい、再び音をたててしまった。
「誰だっ!?」
驚くアキラの声がチサトに聞こえた。
どうしよう、このまま背を向けたまま逃げようか、でも今の彼の表情は・・・?
まだ悲しい顔をしている?
それとも今は怒りに満ちた顔をしている?
どうしても確かめたい、そんな思いもあった。
どちらにせよ気づかれてしまった以上、逃げることは無理かもしれないと仕方なく観念し、立ち上がりうつむいて頭を下げる。
「……すみません」
聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな声。
それもうつむきながら発した声だからきっとアキラには届いてはいないだろう。
彼は何も言わない。
そしてふたりの間に続く沈黙。
再び窓から風が入り、彼女の頬を撫でて前髪が少し揺れる。
でも風の音は彼女の耳には入ってこない。
またさっきみたいに耳鳴りがしそうなくらいは静かさを感じた。
チサトは彼がどんな表情をしているのか確かめたいと思っていたはずなのに今となってはそれが怖く感じ、そのまま頭を下げた姿勢から動けなかった。
「あ、あの、その別にそんなつもりじゃなくて……」
ただ、頭の中が真っ白になりながらも必死になって言い訳の言葉を探す。
「そんなつもりじゃなくて……?」
その声はいつものマイクを通して聞えるものではなく直接、チサトに聞えてくる。
あの日、図書館の時に聞いた声と同じだ、とぼんやりと思い出す。
いや、違う、今度はあのときよりもはっきりと聞こえ、そしてその声は確かに彼女に向かっていた。