黄昏と嘘



「どうした?今日、・・・元気ない?」


授業が終わり、チサトはそれにも気づかず、席についたまま肘をついているところへカノコがそっと顔を覗き込むように声をかける。


「えっ!!」


急に声をかけられびっくしたチサトは思わず大きな声で答える。


「今日、ちょっと様子がおかしいよ?なんかあった?
なんでも聞くよ?」


カノコの明るい表情はどうにかしてチサトを元気づけようとしているのがわかる。
でも週末の出来事をチサトは話せなかった。
話せるわけなどなかった。
結局はカノコの言うとおりだったのだから。

はじめからカノコの言うとおりにアキラのことを諦めていればこんなことにならなかったのかもしれない。

そして週末の夜、アキラに抱かれたことを思い出す。
今でもはっきりと彼の強さ、やさしさ、温かさが蘇る。
そう思うとチサトはアキラと出逢ってしまったことで、彼を諦めることはできないだろうとわかってしまう。

チサトがこうなっている原因はおそらくカノコもわかっているだろう。
でも彼女はチサトに気遣ってか何も言わない。
チサトが何も言わない分、余計に心配しているだろう。


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