黄昏と嘘
「なんでもないよ、元気、元気!」
チサトはまたカノコに気遣い、笑って答えるがカノコにはそれがかえって余計に心配になり、つい聞いてしまった。
「チサト?小野先生のこと・・・?」
小野先生―――。
チサトは笑ったつもりでもその笑顔はカノコに真っ直ぐは伝わったのか否か。
ぼんやりとした表情で思い出すようにチサトは言った。
「あ、言いたくなかったら別に構わないよ?」
予想通りいつもと反応が違うチサトにカノコはやさしく笑って言った。
「先生は・・・。やさしい」
「え?」
「カノコ?
先生はあんなだけど・・・、いつも私を助けてくれるんだよ?
本当はみんなが言うよりもずっとずっと・・・、やさしい人なんだよ?」
そう、とてもやさしい笑顔を私に向けてくれるんだよ。
だから、ちゃんと先生に負担をかけずにこのまま実家に帰らないとだめなんだね。
うん、そうだね、だから・・・週末にはもう帰ろう。
チサトは自分を諭すように、そして今日の1時限のアキラを思い浮かべる。
そう、彼はいつもと同じ、なにも変わらない、そんな表情だった。
違うことはいつもならできるだけ前の席を陣取って授業を受けていたチサトだったが、今日はそれができなかった。
一番後ろの席で目立たないように過ごしていた。
遠くの席から変わらない彼を見て余計に彼女は心を痛めていた。