黄昏と嘘
静かな午後、リビングのソファで資料を整理している手を止めて、ふとベランダの向こうを見る。
天気がよく、9階の部屋からは遠くの景色まで見渡せ、心地良い日差しが入る。
もう冬かと思えるくらいに朝晩は冷え込むが昼間はこうしているとまだ暖かいと感じることができる。
静か――、しかしリビングのドアの向こう側、その部屋にはチサトがいる。
彼女の姿が見えず、ここにひとりでいたとしてもアキラはひとりきりだと感じることはなかった。
近くに彼女がいると思うだけで安心する。
やっとそのことを理解した。
答えから逃げていたのかも知れない。
そして彼は自分で用意したコーヒーを一口飲む。
チサトとはあれ以来、まともに話をしていない。
アキラはチサトに惹かれている、この先もできれば彼女と一緒にいたいと望んでいる。
想っていることを言葉にして彼女に伝えれることができたならこんなに楽なことはないだろう。
しかしいろんなことが過ぎり、伝えることを躊躇させてしまう。
なにより、チサトはアキラのことを避けている、それがすべての答えなのかもしれない。
それならば今のこんな頼りない状態であったとしてもチサトを近くに感じることができるのなら、それはそれでいいのかもしれない、とさえ思うようになった。
こんなにも臆病者だったとは。
そんなことを思い、彼は苦笑し、テーブルのうえに置いてあるタバコを手に取り、火をつける。