黄昏と嘘



「チサト、次の授業で辞書使わなかったら貸して?」

昼休み、食堂で友人の東野 カノコがチサトに聞く。

「あー……うん」

チサトは次の授業は辞書いらないか……と思い浮かべながら、スプーンを皿に戻し、電子辞書を取り出そうとカバンの中に手を入れてガサガサと探る。

あれ?辞書……ない?

カバンの隅にあったはずだと、その場所を探ってみるけれど辞書の感触がない。
今度はカバンの中をのぞきながら探してみるけれどどうにも見当たらない。

毎日、授業で使うから持ち歩いているはずなのに……。

だんだんとチサトは真剣な表情になって必死になって探し始める。

食堂は吹き抜けで天井からも日差しが入り、開放感があって明るい。授業中や休憩時間はわりとひっそりとしているが、昼食の時間帯になるとここはかなりの人でごったがえしている。
そんな中、カノコはA定食の唐揚に付いていたサラダを食べながら言った。

「あー、見つからなかったら別のコに借りるからいいよ?」

「うーん……」

チサトはカノコの言葉に顔を上げ頼りなくそう答えて、再びスプーンを取ってカレーを食べ始める。

「おかしいなあ、辞書さっきの授業の時に使ってたはずなのに。前使ってたのが壊れてせっかく春休みにバイトして新しいのを買ったとこで…」

気分が落ち込みため息交じりで小さな声でそう呟きながらうつむく。

あとで学生課行って忘れ物、届いてないか聞いてみようか。面倒くさいが仕方ない。

「ねぇ……!」

「あ!ごめん!」

チサトはカノコの呼ぶ声にハッとして再び顔を上げる。

「まーた、小野先生のことでも考えてた?」

カノコは箸で彼女を指し、大きな瞳でじっとチサトを睨みつけるようにして詰問してきた。
ふたりは中学からの腐れ縁の親友で、そのせいかチサトは彼女に隠し事なんて全くできない。ちょっとでも変わったところがあるとすぐに指摘する。
もちろん、当然のようにチサトがアキラのことを好きなことも知っていた。

そんなカノコの耳元で可愛いハート型のピアスが揺れる。

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