黄昏と嘘
チサトは気が動転してしまい、何をどうしていいのかわからずただうつむいたまま謝罪を繰り返すだけだった。
「……す、すいません……、すみません……」
ただ、冷たくて低い声---。
謝りながらもそれだけは意識の遠くで理解していた。
「そう……」
そう言うアキラの声がさっきよりも近いところでチサトに聞える。
それは彼が今チサトの近いところまで来ているということだ。
でも顔を上げることのできないチサトはそれだけのことを理解するのにかなりの時間を要した。
いつも授業や廊下で会うとか、そういうことしかなく、そしてそれはいつもふたりの間に距離があって、まして会話なんて一度も交わしたこともなく。
でも今、確実に授業の時より、廊下で会う時より、近いところにアキラがいる。
今の状況はよくないはずなのに大好きな人がこんなにも近くにいる、そう思うとチサトの胸はなぜかときめく。
そしてどれくらい近くにいるのか、その距離を確かめずにはいられず、気づかれないようにそっと少し視線を上に向ける。
先生、思ってたより背が高いんだ……。
背が高いというのはなんとなくわかっていたけれど今は特に距離が近いからか、とても威圧感を感じる。
そしてアキラの表情はさっきチサトが見た淋しそうで辛そうに泣いていたものではなかった。
いつもの氷のように冷たくて無表情。
さっき見たのは幻だったのだろうか、そう思わせるくらいに。