黄昏と嘘
―――「あ、そうだ。先生?
新しい煙草、リビングテーブルの上に置いてますから……」―――
そんなチサトの声が聞こえたような気がした。
自分でもおかしいと思う。
変だと思う。
もう絶対にひとと関わらない、関わることを止めたと決めたはずなのに。
それでずっと当たり前のようにここまでやってきたはずなのに。
いとも簡単に、自分よりも一回り以上も年下の、しかも自分の教え子にその壁を崩されてしまった。
そのうえ彼はまるで子どものように彼女にどう接すればいいのか、どう言葉をかけていいのかさえわからないのだ。
ソファにもたれ、大きく息を吐いたとき、リビングのドアが開く。
「あの……先生。ちょっといいですか?
お話したいことが……」
そこに立っていたのは神妙な顔をしたチサトだった。
その表情にアキラもまた一瞬、表情が固まり、身体を起こし、体制を整える。
少しの戸惑いを彼女に気付かれないように彼は冷静を装う。
「なんだ……?」
そう答え、ゆっくりとチサトの方を見る。