黄昏と嘘
そしてチサトは彼に対し本当に、いつ見てもはっとするくらいにきれいな男性だと思う。
そう言えば久しぶりにアキラのことを見たかもししれない。
気づけば彼女の心臓がどきどき鳴り始める。
そのことに気づき、やはりそれでもチサトはアキラのことが好きなんだ、どうしても、どんなに嫌われても彼を諦めることはできないと改めて思い、うつむいてしまう。
そして少ししてゆっくりと顔をあげて、できるだけの笑顔をアキラに見せた。
それは常に真っ直ぐに向けていた笑顔と同じだった。
でも彼女から発せられた言葉はアキラが思ってもみなかったものだった。
「……先生、お世話になりました。
私、今日、実家に帰ることにしました」
この言葉を笑顔で言うためにチサトはあの夜の日から何度も何度も練習してきた。
いつも途中で泣きそうになるから泣かないように笑って言えるようにと。
しかし彼女のその笑顔はその言葉とともに歪んだ。
アキラは彼女の突然の言葉に煙草の火を消し、何か、言わなければと思ったものの、何を言えばいいのか言葉が出てこなかった。
チサトの方は自分でも泣きそうになってきているのがわかった。
アキラに見られたくない、そう思い、頭を深く下げる。