黄昏と嘘

あまりにも急すぎるチサトの言葉にアキラはせめて、と思っていたさっきの言葉さえ飲み込んでしまう。

彼女が自分から離れていってしまう。
どうすれば。
引きとめようとすればきっと彼女は怖がってしまうかもしれない。
無理をすれば今以上に嫌われてしまうかもしれない。



ふたりは思い違いをしていながらも同じ感情を抱いていた。

 
 ―――もう、これ以上、自分ことを嫌いにならないでほしい。―――


今以上、嫌われてしまうのなら、このままで曖昧なままでいるほうがまだマシだろう。
そんな思いだった。

もう少し、互いに勇気を持てば、もしかしたら幸せはすぐ近くにあったかもしれない。
でも今のふたりにはそこまでの勇気はもちあわせてはいなかった。



「ありがとうございました」


そう一方的にチサトは言って、アキラに背を向ける。


「ちょっと、・・・」


アキラはそう言ってチサトの後ろ姿に手を伸ばし、呼び止めようとしたが声が小さくなり、言葉は途中で消えてしまった。

そこで呼び止めたところで何を言うつもりなのだろう、どうするつもりなのだろう。



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