黄昏と嘘
アキラはチサトがリビングを出て行ったあと、再び静まり返った部屋でぼんやりとソファに座ったまま腕を組む。
どうして彼女は突然、ここを出て行くと言い出したのだろうか。
あんなに実家には戻りたくないと言っていたのに。
原因に全く心当たりがない、わけでもなかった。
それは今までの自分のチサトへの態度を思い出すことでわかることだ。
きっと彼女にここを出て行く「これ」といった原因はないのだ。
今までの自分の態度が彼女を傷つけ、その傷が彼女の中でやがて大きくなってしまい、チサトは耐えられなくなってしまったのだろう。
そこまでになってしまって今更、チサトのことが好きだったことに気付いてももうどうしようもない。
ただでさえお互いの社会的な立場があるのに、何を愚かなことを考えているのだろうか。
アキラはこれでよかったのかもしれないと思い込もうとした。
でも---。
いろんな場面で彼女をを哀しませて泣かせてしまった。
自分が知らないだけでもっと彼女に辛い思いをさせてしまったかもしれない。
だったらせめて謝罪を、そう思ったけれどそれを口実にもう一度、彼女と、という思いが・・・。
最低だ。
もう避けられているのだから、この想いはこのまま静かに胸に秘めておいたほうがいい。
当然、叶うこともなく、表に出したところで誰の有益にもならないどころか、ただ不幸をもたらすだけになるのだから。
そして、万が一、チサトと一緒になったとしてもまたあの時と同じ過ちを繰り返してしまう、それが怖かった。
彼女を哀しませることをしたくない、・・・違う、自分が傷つきたくないだけなのだろう。